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株式会社食品産業新聞社 月刊「メニューアイディア」 2015年3月号より転載

学校給食こそ少子高齢社会の中で救世主となる栄養教諭の増加が児童生徒の食向上に直結する

世界では和食や日本食がブームという。そのわりには国内で健康的な食事習慣を誇っている人をそう多く見かけない。 特に児童生徒の置かれた食空聞は、家庭の食事風景がガラリと変わり危機的状況でもあり、 今や学校給食が“希望の星”ともなっているのは、皮肉にも「先進国」の歪みなのだろうか。 編集部では1月に行われた各種団体の新年会の中から、今年も学校給食用食品メーカー協会にご協力をいただき、 同協会塚本哲夫会長と全国学校栄養士協議会の長島美保子会長による現状と夢を大いに語る爽やか新春座談会を開催した。

恵まれた食材・精神文化に基づく日本の食事

塚本会長

塚本会長

塚本 新年おめでとうございます。今年は未年でおとなしいかなと思っていたら、 年始から円安等で厳し環境となり、会員皆で良い年に努めなければと思っています。
長島 新年おめでとうございます。今年は栄養教諭制度が創設され、平成17年から配置がスタートしてから10年目の節目の年を迎えました。 27年度はこの10年の取り組みを検証しながら、私たちが担っている学校給食のあり方、食育推進のあり方について、 学校教育における確かな位置付けをめざしていきたい。
塚本 栄養教諭や食育事業というのは、むしろ義務法にする運動にでもしていかないといけないかも知れませんね。
長島 給食はいま小学校では99%ですが、中学では10%しかないところもあります。徐々に増えてきているもののまだまだです。
- 世界では和食が話題になり、日本食がブームとなっていますが?
長島 ユネスコの無形文化遺産として「和食」が登録されたことは大変喜ばしいことと思います。「和食」とは、 単なる一汁三菜といった日本食の形や料理のみを指しているのではなく、日本の四季折々の気候風土に恵まれた豊かな食材に、 自然の恩恵や信仰、地域の特徴的な文化を背景に育まれてきた、いわゆる精神文化に裏打ちされた奥の深いものだと思います。 これを、子ども達にどう伝えられるのか。学校給食を教材として子どもへ、家庭へ伝えていく。 単に行事食・郷土食のみではなく、だし・味・魚の骨のはずし方・ はしの使い方など、包含した広い視野で伝えていく必要があります。
塚本 日本の食文化がユネスコに認められたことは嬉しいが、一方で海外輸出といっても『いただきます』や『ご馳走さま』など心から言えるよう になることも大事と思う。もう1つ。日本食が良いと言われてきたのは、和食で長生きしてきた=健康という面もある。

学校給食の“現状と夢”を語り合うお二人
学校給食の“現状と夢”を語り合うお二人

必要な味覚障害対策

長島会長

長島会長

長島 いま味覚障害という問題が起こっています。 乳幼児からとりかかるべきで、五感を使って食べることが薄れてきています。 見た目や匂いなど感じ取る体験が少なくなり、おかしくなっています。給食現場ではごちゃごちゃにすることなく、 メリハリある季節感ある食事を与えていこうと努めています。食育の取り組みでは、食物を育てるなどの体験であったり、 トントンと物を切る音や匂いなど、様々な体験を通して活動しています。
塚本 味覚障害は食の乱れが原因と思う。日本人の体質自体が変わったわけではない。美味しさの分かる人間を育てないといけない。
長島 ただ甘くて柔らかいものだけを出していてはいけません。例えば山菜のエグミなどが分かったりすること、 そうしたものを受け入れたりできる食事が必要と思います。
塚本 食べやすいものだけを出していてはダメだと言うことですね。
長島 子どもに迎合しすぎてもいけません。特に味覚については、子ども達に「食」への興味をもたせ、五感を使って食べることで「食べ物」 にしっかり向かい合わせることが必要です。乳幼児期から強い味に出会わせない、食材の新鮮な素材の味に出会い、旬の味覚を味わわせることが大切です。 学校給食では、旬の食材を使った、素材のわかる科理を提供するよう工夫しています。 また、調理実習等の場面で、匂い・歯ごたえ・音・ 色彩・味など五感を使った食材体験もしています。 食材との幅広い出会いを通して、食べ物としっかり向き合わせる体験活動が必要です。

海外に発信できる学校給食

- 学校給食を通じた食育について、いまベトナムや台湾では 『食習慣の改善に給食が効果的』と判断されるなど、世界的になっています。
長島 『世界に冠たる日本の学校給食』との評価は、たいへん誇りに思う。 学校給食は、教育課程に位置づけられた教育活動の一環として行われています。 戦後からの給食制度で、短期間に子ども達の栄養状態も改善されました。また学校給食を通して、栄養や食に関する様々なものを学び、身につけています。 この学校給食の仕組みを海外に発信することは必要で、リーフレット発行などで海外に発信しようとする動きもあるようです。
塚本 素晴らしいこと。ベトナムや台湾だけでなく、モスクワでもニューヨークでも素晴らしいと賛辞の手が上がっています。 しかし、こちらからの発信というより“学校給食が羨ましがられている”のであれば、むしろ向こうから素晴らしいと思われ、 学べられるように出来たらいいと思います。
長島 学校給食を体験する場をもっと形作られればいいと思います。
塚本 世界に模範を示す必要もあるのではないか。
長島 国の制度としてやっている国は他にないかも知れません。ある意味、物より文化を売ることも必要です。
- 食品メーカーによる安全安心で的確な品質の海外食材提供を、現実的に学校でもっと認知普及させる必要性もあるのでは?
塚本 海外での1番の問題はやはり品質問題。我が社がプロセスチーズの原料で経験したオーストラリアでも品質の改良には 20年以上かかりました。異物混入等の衛生観念は日本とレベルが違いました。 日本の食はキメ細かい。ある意味、相手国にもっと要求していくべき。ただ値段の問題もある。 価格が安くなっては人手もかけられない。結果、輸入ものを日本の消費者が許してくれない現状というのは改善しなくてはならない。
長島 学校給食では、何より安全・安心が求められます。第二次食育推進基本計画では、学校給食に国産食材を活用する数値目標として、 80%以上使用することが掲げられ、日本の食文化への理解や食料自給率への関心をもたせるなどが求められています。 海外食品については、生産加工の現場がしっかり衛生管理が行き届き、社員教育がなされていくことを願っています。
塚本 海外の工場でもちゃんとした原料を使い、きちんと生産していることを知ってもらうのも重要ですね。
長島 日本の学校給食の現場は本当に厳しいですから。

地産地消とメーカーの役割

- 逆に地産地消の重要性も高まり、全国学校給食甲子園では郷土料理の給食メニューが優勝校となりました。
長島 地域に根ざした学校給食が望まれています。地元食材を使い、子ども達に身近でよろこばれる献立内容で、それを郷土学習につないでいます。 国内の他の地域の献立を実施することもあり、甲子園入賞の秋田県の郷土料理が他の地域の給食にのぼることも予想されます。 現在も行われていますが、今後もますます地域色豊かな給食が実施されるし、献立研究も行われると思う。
塚本 地産地消は素晴らしいが、メーカーとして食品に対応することは難しい。必要とは思うものの全国一律ではなく地域ごとに変えていくのは大変難しい。
長島 例えば、キリタンポをメニュー化する場合、別の地域で作るときには、メーカーが製品としてキリタンポを作ってくれると有難いのですが。 また、ひな祭りのゼリーなどでは、美味しさと食べやすさで行事食をごまかしている面もあるかと思います。本当は餅などを入れたものとして、 学校給食に見合った食品開発を大事にしていただければ嬉しいです。
塚本 少しずつアレンジしていくことが必要ですね。
長島 受注生産という仕組みづくりもできるのではないでしょうか?
塚本 一度形にして、小さなアイデイアの積み重ねが重要と思います。
長島 例えば、地元の葉物を食品化されている事例もあります。その声を聞いたり、届けたりする。 メーカーと栄養士が県内単位ではあっても双方向にもっと上手く流れていけると良いのですが。

健康的に食べる意味と感謝の心

- よく噛まないことで歯の健康など様々な問題が噴出しています。
長島 学校給食を通して、日常の食事の大切さが分かり、健康によい食事のとり方が身につくように指導しています。 カミカミメニューといった形で、歯ごたえのある食材を組み合わせた献立が登場します。 また、健康な歯の指導は、保健学習とも連携して行っていて、これに力を入れている学校もたくさんあります。 しかし、まだまだ噛めない子が多い。家庭を巻き込んでやっていますが、追い付かない現状もあります。
塚本 歯の問題はカルシウムの問題でもある。よく噛むことで頭もよくなる。学校の学力向上につながる。 歯医者さんにももっと学術的に大々的に発表してもらいたい。固いものを食べることが大事で、 本当は魚の骨でカルシウムをとり骨を丈夫にすればいいのですが。
長島 野菜も噛まないと食べられないので、苦手な子も多いのです。あの手この手でカを入れて取り組んでいますが、生活習慣病というのは簡単に治りません。
- 食事への感謝の思いがなくなりつつあります。 学校での取り組みは?
長島 感謝の心というのは、いくら言葉で教えても生まれるものではない。自然な心の中から引きださないと難しい。 食事とは、多くの人々が心を込めて作ったものであることを、学校給食を通して知らせること。 生産者・加工業者・流通の人・調理現場など、様々な人々の苦労や働きによって、給食が届いていることを知ってもらい、 感謝の気持ちをもって食事ができるようにすることが大事です。
農作業体験などの体験を通して、自然の恵みや勤労の大切さ、大変さを身につけさせる。 なぜ「いただきます」「ごちそうさま」なのか、意味を知る食育の時間もつくるなど学校給食を教材にして行われています。
やはり食べ物ができる過程を知らないことが問題です。もう少し具体的に言うと、ある子供が道すがら、 お婆ちゃんが土からネギを抜いて 小川で洗っている姿を見て、残さず食べるようになった。口や理屈だけでは伝わらない、 そういう仕組みを様々な面から作っていくことが大事だと思います。
塚本 私は食事の教育より、むしろ農業の体験が重要だと思う。畑や田んぼを自分たちで作る。 アスファルトジャングルで育った子が土や自然にたわむれること。私は『徴兵制』ではなく『徴農制』への取り組みが大事だと思う。 若いときに農業を体験した人は高齢になってもまた農業へ戻る、と言われる。徴農制を実現すれば、39%の自給率も高くなる。 人間関係ももっと良くなる。本当の農業体験が学校の給食を豊かにつなげていく。土を知らない人間ではダメ。人が健全に生きるもとです。
長島 その点もきちんと教えていきたい。農家に足を運ぶなど、私たちが連絡し、調整していくのも役目。もっとサポートに関わることが重要ですね。

少年期&青年期全体を給食で

- 国内にあるコメの在庫を放出するなど、学校給食の無償化や、高校での給食実施の普及など、どうお考えですか?
長島 生涯に亘って国民の健康を支える身体作りの基礎として、学校給食はますます重要と考えます。 すべての小・中学校で、行われるよう・特に中学校給食の推進拡大を願っています。学校給食の無償化・高校の給食については、 現在の学校給食は、学校給食法に基づき、「義務教育諸学校において、その児童生徒に対して実施される」とされています。 ただ、夜間定時制高等学校に於いては勤労青年教育の重要性から、関連法律で実施するよう定められています。 食事を通して自己管理ができるように、小中学生には指導していることから、それを継続し、 生涯につなぐためにもバランスのとれた安全な学校給食を高校生が食べられることは理想だと思います。
塚本 本当に必要なら無償化にしてもいいのではないか。他の勉強はすべて競争なのに、給食だけは競争がなく、お互い和みあえる。 人間の手をつなぐのが給食の使命とすればタダにしても良いのではないか。 高校給食に人件費など多大に費用がかかると言うなら、世の中には元気な老人がいっぱいいるから、 パチンコやゲートポールをしている暇があったら給食のサポートもできるはず。 これからの時代は、元気な老人をどう使うかで、昔の遊びを教えることもできる。 その意味では給食こそ高齢社会の救世主になるかも知れない。
長島 今の親世代が学ぶ必要がある。1番、大切な何かを伝えて来なかった世代かも知れない。

栄養士とメーカーの連携が重要

- 学校給食の料理を家庭に広く浸透させ国民の健康を育成するという方向性について
長島 学校給食は、成長期にある児童生徒の心身の健全発達のため、栄養バランスのとれた豊かな食事を提供することと 併せ食育の重要な教材としての役割も持っています。その中で、地場産物を活用し、地域の郷土食や行事食を提供し、 地域の食文化や伝統を伝えようとしています。 学校給食は、特別な料理ではなくて、地域に根ざした家庭料理が基本で、家庭の台所と直結したものであることが理想です。 給食だより・食育通信などによる啓発活動、試食会や食育研修会、料理教室などの体験活動により、 学校給食献立の紹介・普及を図り、国民の健康増進に寄与できるよう頑張っていきたい。
いま学校の栄養士1万2,000人のうち、私達協議会メンバーは約9,000人います。 会員はそれぞれ1校~10校までと受け持ち範囲は異なりますが、その背景には数千万人という児童生徒が私たちの作るメニューを食べている という責任はとても重大です。 一方で、年齢的に若い人も多く、もっと料理の力を伝えていくため、研修の機会を増やすなど情報の交換会を作って会員の資質向上に努めていきたい。
塚本 子供たちが「今日こんなに美味しいものを食べたので家でも作って」という給食をもっともっと出してほしい。 我々も食文化の先端を行くような料理を出すための食品開発に努力していきます。
- 最後にさらなる抱負を
塚本 学校給食用食品メーカー協会としては、その歴史と伝統を重んじながら、会員の会社がもっと活性化できるようにしていきたい。 学校給食として、全体にもっと良いものにしていくこと。例えばランチルームの中で、 食べる雰囲気をしっかり創造していけるような食品を提供していこうと頑張っています。
長島 栄養教諭の立ち位置を明確にしていくこと。 給食を食材としての教育にしなくはと思います。 教科ではないが、義務教育の間に子供たちにこれだけは身に付けさせたいという教科書を創り上げていくため、現在まとめているところで、 そういう夢を描いています。教科として認められない中、 食育という教育を実りあるものにしていくためには、 食品メーカーの理解と援助も必要で、連携がもっと強くなっていけば上手くお互いの意見も言い合えるようになり、 学校給食向上に向けて相乗作用となっていけるものと願っています。

話が弾むお2人の両会長座談会

文部科学省が「2013年度 学校給食実施状況等調査結果」を公表したので、一部を掲載する。

国公私立学校の13年度学校給食実施率は、前回公表の12年度デー タ比で0.5ポイント増、94.6%と上がり、完全給食実施率は0.8ポイント上昇した。(表1)

国公私立学校等の栄養教諭・学校栄養職員数は 1万2,143人で、13年と12年度の人数に大きな差はないが、 栄養教諭は13年は4,703人で、12年と比較して348名増えている。(表2)

学校給食調理員数は公立学校が5万6,120人で、昨年に比べ2,570人減少している。 逆に非常勤職員の比率は12年比0.9ポイント増の42.8%と上がっており、調理業務の外部委託が進んでいることが分かる。(表3)

米飯給食を実施している国公私立学校数は全国3万198校と判明し、完全給食を実施している学校数のほぼ100%。 米飯給食の週当たり回数は3.3回で、前年と同数になっている。(表4) なお、学校給食費の保護者負担月額は4,160円(低学年、中学年、高学年の平均値)、中学校で4,800円となっている。(表5)

全国栄養士協議会長島会長と塚本会長「新春座談会」
月刊「メニューアイディア」 2015年3月号より転載

栄養教諭・栄養士・調理師・調理員の皆様へ

学校給食におすすめのメニューレシピ集などをご紹介します。

おすすめ給食レシピ
  • 焼きサバのおろし煮
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  • 大根と人参のナムル
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  • カレービーフン
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